*アマチュアリズムの起源
では、アマチュアリズムというこの奇妙な概念は、そもそもいつどこでどのような経緯で生まれたものなのでしょうか? じつのところ「金銭あるいはそれに準ずる対価を受けとることなしに、なんらかのスポーツに好んで従事する」ことをあえて選びとるというこのアマチュアリズムは、そもそも選民思想的な背景のもとに生まれた概念だともいえるのです。このことを知ればアマチュアもしくはアマチュアリズムという言葉のイメージがガラッと変わるのではないでしょうか? では具体的にこれがどういうことなのかみていきましょう。
アマチュアリズムは、19世紀末、近代オリンピックの創始者ピエール・ド・クーベルタンによってはじめて言葉として明確に定義されたものだといわれています。けれども実質的にこの概念は19世紀中頃のイングランドで生まれたものだといえます。
19世紀に入るとサッカーやラグビーなど現在も広く親しまれているスポーツ競技がつぎつぎに発明&整備されるようになりました。19世紀になってイングランドでスポーツがつぎつぎに誕生した理由はいくつか挙げることができますが(当時のイングランドの教育界や宗教界において運動を通じた人格形成論が台頭してきたことが、その一番の理由ではないかといわれています)、いずれにしてもそういったスポーツ競技にはパブリックスクールの学生や一部の富裕層のみが参加していました。当時労働者階級には経済的にも時間的にもスポーツをする余力がなく、結果的に学生や富裕層がその担い手となっていました。そしてこうしたスポーツが誕生した当初は、アマチュアという言葉自体、積極的に使われることはほとんどありませんでした。というのも当時スポーツはプレーするためのものであって、それにお金を払って観戦したりスポンサーとなって選手に報酬を払うという習慣がなかったからです。したがってスポーツをする人=アマチュアであり、それをわざわざアマチュアと呼ぶ必要がありませんから、当然といえば当然ですね。
ところが19世紀中頃になると事態に変化が見られるようになりました。それは労働者階級のスポーツ界への進出によって引き起こされました。イギリス経済の成熟とそれにともなう労働法の整備により、労働者に経済的にも時間的にも余裕が生まれました。結果、労働者も休日にこぞってスポーツをたしなむようになったのです。そしてそして・・・。ここにいたって、それまで必然的に「アマチュア」のみによってプレーされていたスポーツ界にある意味で前代未聞のできごとが起こったわけです。それというのはスポーツ界におけるプロ選手の誕生となります。
そして、アマチュアもしくはアマチュアリズムという言葉が積極的につかわれるようになったのはちょうどこのころのことです。というよりはこの段階でようやくプロにたいするアマチュアという言葉が意味をもちはじめたといっていいでしょうね。
ただただ・・・。ここでもう一度アマチュアの定義をもちだしてみますが:「金銭あるいはそれに準ずる対価を受けとることなしに、なんらかのスポーツに好んで従事する」 そしてプロスポーツ選手がいるからこそ、その対概念として金銭的報酬を得ることなくプレーをする人たちのことをそう呼称したといえるのだろうか? この問いかけはそのとおりです。けれども、労働者階級から多くのプロ選手が誕生したのはたしかなのですが、では労働者階級のアマチュア選手たちが、自分たちはアマチュアであると自覚していたのか? もしくは、彼らがアマチュアリズムをもっていたといえるのか? つまり、「あえて」「金銭あるいはそれに準ずる対価を受けとることなしに、なんらかのスポーツに好んで従事」しようとしていたのか? 答えは微妙です。正確なデータがあるわけではないので実情はわからないのですが、ただおそらくは「あえて」アマチュアリズムを実践しようとしていたわけではないと思います。おそらくは、それが仕事にできるのならば当時のアマチュア選手のほとんども、プロ選手になりたかったのではないでしょうか?
では、アマチュアリズムはどこからどのように発生したのか? この問いかけにたいする答えですが、さきに挙げた貴族階級やブルジョワ階級などの富裕層からとなります。彼らはスポーツを職業とすることを断固として拒否しました。さらには、当時イングランドのあちこちで誕生していたプロ組織と接触することもあえて避けていました。
その理由ですが、彼らはスポーツの精神が金によって穢されてしまうのを嫌ったということもあります。けれどもそれとはべつに、ある意図が介在していました。それは当時すでにスポーツ界の中心を担っていた労働者階級を排除するためです。実際、当時この富裕層を中心に結成された、「金銭あるいはそれに準ずる対価を受けとることなしに、なんらかのスポーツに好んで従事する」ことを大儀とするアマチュアクラブは多数存在していたのですが、その多くは同時に肉体労働者などの入会を拒んでいたといわれているのです。
(以下続く)
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